研究概要 |
語形成に演算と記憶という異なる心内・脳内メカニズムが関与すると考える二重メカニズムモデルを作業仮説とし、使役構文の処理メカニズムを明らかにすべく,首都大学東京において128チャンネル脳波装置(Neuroscan)を用いて行った事象関連電位実験の結果を論文としてまとめ、現在,国際学術誌に投稿し,査読中である。概要は以下の通り。 語幹を共有する語彙使役とサセ使役のペアを用いて、語彙使役文では正文(「料理を並べる」)と意味選択の逸脱文(「*歓声を並べる」)、サセ使役では正文(「選手を並ばせる」)とサセの選択制限違反の逸脱文(「*料理を並ばせる」)とを刺激文とし、それぞれ正文と逸脱文との波形比較および正文同士の波形比較を行った。語彙使役文では逸脱文における文末動詞で意味的な処理を反映するN400成分が出現した。一方サセ使役文では,前頭部陰性波ANとN400とが観察され,サセ使役の処理に演算的側面が関わっていることが示唆された。正文同士の比較では,サセ使役にP600が出現していることが判明し,これはサセ使役文の埋め込み統語構造処理に関わる負荷を反映するものと解釈できる。全体として、語彙使役はネットワーク的記憶処理され、サセ使役は統語演算によって処理されるとする二重メカニズムモデルによるアプローチが支持された。 また、日本語処理のERPに関わる基礎データ蓄積をめざして、日本語の格違反についての実験を行った。動詞の語彙情報に依存する格違反の処理にN400が出現すること、また「を」→「に」の違反(「人をぶつかる」)と逆方向の違反(「子供に叱る」)で差がないことを明らかにし、学会発表を行い、予稿集に公表した。
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