英語及び日本語の初期音韻獲得のデータについての比較研究を通し、通言語的な「有標性」及び個別言語的な「有標性」について調査し、最終的には言語の「普遍性」と「変異性」についての理解を深めることが研究の目的である。 今年度はまず正常発達児5名から収集した初語期から60語期までのデータに基づいて韻律構造の変遷について分析をした。さまざまな音韻過程の分析から、2モーラがフットとしての無標構造であることがこれまで日本語に限らず他言語においても報告されている。音韻獲得においても「2モーラ最小語期」の存在は多くの研究で指摘されてきているが(e.g. Ota 2002)、子供が果たして2モーラ構造を初期段階から備え持っているのか、または1モーラ期を経て2モーラ期に至るのか、については実はまだ明らかになっていない(cf. Salidis & Johnson 1997)。5名のデータにはたしかに1モーラ語も含まれてはいるため、一見発達段階には1モーラ期が存在しているようにみえるが、実際エラーとしての出力形という観点から分析してみると、2モーラ形が圧倒的に多く観察された。このことから、子供たちは1モーラ期を経るのではなく、初期段階から2モーラの韻律構造が音韻知識として備わっている可能性が大きいという興味深い結果が得られた。 この研究成果はドイツ・ベルリンで開催された"10^<th> International Congress for the Study of Child Language"及びオランダ・ユトレヒトにおける"Workshop on Models of L1 and L2 Phonetics/ Phonology"という2つの国際学会において発表した。
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