英語及び日本語の初期音韻獲得のデータについての比較研究を通し、通言語的な「有標性」及び個別言語的な「有標性」について調査し、最終的には言語の「普遍性」と「変異性」についての理解を深めることが研究の目的である。 正常発達児の初期音韻データの分析から、子供たちの韻律構造の変遷は1モーラ期を経るのではなく、初期段階から2モーラ韻律構造が音韻知識として備わっている可能性が大きいことが昨年度までの成果結果から示唆された。今年度も韻律構造に着目し、データをさらに詳細に調べてみたところ、単に2モーラという構造だけでは初期音韻獲得のデータをうまく捉えることができないことが明らかとなった。たしかに2モーラが無標音韻構造として重要な役割を果たしていることは事実である。しかし、収集したデータ内の子供たちのスピーチエラーを調べてみたところ、1モーラ+1モーラの構造を持つ語彙項目が2モーラ+1モーラとして発話される例(baka>kaata‘ばか')なども観察されていることから、重音節+軽音節の組み合わせが無標語形として何らかの普遍的な役割を果たしている可能性もある。スペイン語でも同様に重音節+軽音節(heavy+light)が好まれる傾向にあるという報告もされており(Lleo & Arias 2005)、今後普遍的な観点からさらに追究していく必要がある。 この研究成果はクロアチア及びドイツで開催された2つの国際学会において発表し、さらには日本コミュニケーション障害学会(大阪市立大学)及び上智大学言語聴覚研究センター主催のシンポジウム(上智大学)に講演講師として招かれた際にも一部発表した。
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