所有格表現と深い関係があるのが限定詞であり、所有格の研究は限定詞システムの研究なくして語ることはできない。それは共時的研究でも通時的研究でも同じであり、さらには統語的研究でも意味的研究でも同じである。本年度アメリカとオーストラリアで実施したアンケート調査で明らかになったのは、限定詞前位詞(predeterminer)と呼ばれる項目が限定詞、限定詞後位詞(postdeterminer)、修飾語の位置に移動しつつあるということであった。これは所有格表現の統語構造の研究にとって大きな意味を持っている。なぜならば、これまで限定詞の位置にのみ現れると考えられてきた所有格表現が限定詞後位詞や修飾語の位置にも現れる可能性があり、現代英語の限定詞システムを従来とは全く異なる視点から見る必要が出てきたからである。しかも、この結果は所有格表現が現れる位置が変化しつつあるという昨年度のアンケート結果とも一致しており、昨年度の調査結果を分析する手掛かりを得たと言うことができる。統語的位置に多様性があるのであれば、その意味に多様性があるのも当然であり、意味論的研究にも大きな意味合いをもっている。所有格表現は指示詞的な意味を表すこともあれば、限定形容詞的な意味を表すこともあり、同じことが数量詞についても知られている。したがって、現代英語の所有格表現、限定詞前位詞、数量詞の少なくとも3種類の語彙項目が統語的も意味的にも並行的な特性を持つという結果になる。この結果はこうした項目の歴史的変化の分析にも影響を与えると予想され、来年度の課題の1つとしたい。
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