平成19年度は本研究の最終年度になるので、英語所有格の共時的・通時的特徴を総合的にまとめる方向で研究を進めてきた。一般的に言われているのとは異なり、Abney(1987)で提唱されたDP分析だけでは英語の所有格形を扱うことはできず、Taylor(1996)等で提案された複合語分析も必要であることには疑いの余地がない。しかも、歴史的に見るならば、複合語分析を必要とする所有格形表現の数は増加傾向にあり、平成17年度以降のアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスにおけるアンケート調査の数値はその事実を見事に裏付けている。もう1つの興味深い変化は有生性条件にあり、ジャーナリズム英語を中心にこの条件は消滅の方向に向かっている。この傾向はジャーナリズム英語以外にも現れ始めており、そうした有生性条件に違反した表現の多くはDP分析よりも複合語分析を要求している。この有生性条件と複合語分析との相互関係を実証的に証明したのは本研究が初めてであり、そういう意味でも共時的研究と通時的研究の自然な融合は極めて重要である。有生性条件は語用論的条件であり、その条件の変化が統語構造にも影響を及ぼしていると考えられる。この点はまだ十分に立証されたとは言いがたいが、可能性は非常に高い。他方では限定詞という範疇が現代英語で強化されつつあることも事実で、bothとallは前位限定詞から限定詞に変化しており、限定詞という統語範疇が現代英語で大きな理論的地位を獲得しつつあり、DP分析の重要性を示している。
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