移動現象のうち、WH移動構文(疑問文、関係節)や話題化構文などにおける移動と名詞句移動(受身や繰上げ構文の移動)および、ヒンディー語・ウルドゥー語の右方かきまぜ移動の再構築現象について研究を行い、それらの構文に見られる再構築の性質について考察を進めた。 まず、初年度から考察してきたチョムスキー理論のフェイズという概念に基づく再構築分析の問題の所在を明らかにし、この先行研究を支持するには補助的な仮定を導入する必要があることをより体系的に論文としてまとめた。 ヒンディー語・ウルドゥー語の右方かきまぜ構文について、右方移動とされてきたものは残余構成素の移動であるとする先行分析の理論的経験的問題点を指摘し、代案として右方移動分析の妥当性を主張する内容を、関西言語学会による招聘発表として発表し、この学会のプロシーディングズに掲載予定の論文としてまとめた。 トップダウン式再構築分析を提唱し、主たる移動構文に照らして妥当であることを立証することを目的として研究を進めてきたが、その論文を本年3月に発行の科学研究費研究成果報告書の7章に掲載した。この中で、構造が構築されることで、移動を受ける要素は文頭に挿入され、文末方向に転移し、やがて解釈される位置に落ち着くと主張した。ボトムアップ分析とは異なり、移動される句は発音される位置に挿入され、必ずしもその句全体が移動される必要はなく、音韻素性は発音される位置に残され、解釈される位置に移動される要素は、必要最小限の部分、つまり、形式素性と意味素性でよいと提案した。様々な再構築現象に照らして、この分析が正しいことを明らかにした。これにより、交付申請書の「研究の目的」と「研究実施計画」を遂行することができたと思われる。
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