まず、ボトムアップ方式の再構築現象の先行研究の理論的経験的問題点があることを示し、トップダウン式の代案を提示した。束縛理論の適用のタイミングの問題について考察し、束縛理論が文を派生するシステムの中で、いつどこに適用されるかについて対立する研究を比較検討し、Chomsky理論で提案されている、論理形式における束縛理論の適用を支持する論拠を展開した(2章)。また、フェイズ理論に基づく再構築現象の先行分析を検討し、この先行研究の枠組みを支持するためには多くの補助的な仮定を導入する必要があることを明らかにした(3章)。主語名詞句内の要素が疑問詞あるいは話題要素として文頭の位置へ移動する現象について、理論的経験的問題点を指摘し、WH移動に関して、特に、主語名詞句内の要素が疑問詞や関係詞として文頭の位置へ移動する現象についてトップダウン式の派生を仮定することで、従来捉えられてきた主語条件という現象をより一般的な介在現象のひとつとして捉えることができるという筆者のこれまでの研究を、さらに近年の研究を踏まえたうえで、支持できることを明らかにした(4章)。トップダウン式の派生にもとづいて、使役構文を捉えなおす可能性について研究を行った(5章)。右方かきまぜ構文について、これが残余構成素の移動であるとする先行分析の理論的経験的問題点を指摘した(6章)、トップダウン式に統語構造が構築されることで、移動を受ける要素は文頭に挿入され、文末方向に転移し、やがて解釈される位置に落ち着く。ボトムアップ分析とは異なり、移動される句は発音される位置に挿入され、音韻素性は発音される位置に残され、解釈される位置に移動される要素は、必要最小限の部分、つまり、形式素性と意味素性でよいとの仮定を導入した。A移動、A'移動の再構築現象に照らして、この分析が支持されることを述べた(7章)。
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