研究概要 |
1.日本語スクランブリングの分析に基づく理論研究 2003年に専門誌Linguaに発表した論文"A derivational approach to the interpretation of scrambling chains"では、(i)フェイズ理論に基づく連鎖の循環的解釈と(ii)連鎖解釈における統語素性の自律性、を仮定することによって、日本語スクランブリングの主要な性質を説明することが可能となることを示した。この論文の理論的な成果は、新たな提案である(ii)を経験的に基礎付けたことにある。本年度は、このアプローチを、計量詞の作用域解釈と否定対極表現の認可に適用し、さらに、照応形や束縛代名詞、述部・項構造の解釈と対比することによって、統語構造から意味情報を抽出するメカニズムの全体像について研究を行った。この研究の成果は、スクランブリングに関する論文集Free Word Order Phenomenon (J.Sabel and M.Saito, eds., Mouton de Gruyter, Berlin, 2005)に発表した。また、計量詞と否定辞の作用域関係についても研究を開始し、日本語文の談話構造から主要な現象を説明することを試みた。この研究は、来年度も継続して行う予定である。 2.スクランブリングの比較研究 以上の日本語スクランブリングに基づく仮説を、オーストロネシア系言語、ドラビダ系言語、スラヴ系言語、ゲルマン系言語に適用して検証するとともに、言語間にみられるスクランブリングの性質の相違を明確化する研究を進めている。来年度以降も、研究協力者とともにこの研究を継続し、演算子移動、名詞句移動を含む移動の類型論を確立することをめざす。
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