研究課題
日本語スクランブリングの統語的性質と意味解釈について、継続的に研究を行った。特に、昨年度"Further Notes on the Interpretation of Scrambling Chains"において提示したスクランブリングの統一的分析を発展させ、一見反例となるように思われる事象の研究を契機として、非対格文や受動文におけるvの統語的役割、日本語左方周辺部の談話的解釈について考察を深めた。主な研究成果を以下に示す。A.複合述語文における移動現象の研究(vのEPP素性について):いわゆるA-スクランブリングの着地点をTP指定部とする宮川繁氏の仮説を批判的に検討。束縛現象の分析のみならず、「主語」の定義において問題が生じることを指摘した上で、複合述語文の分析を手掛かりとし、主語指向性を示す日本語再帰代名詞の先行詞は、EPP素性を照合する要素であることを提案した。この過程で、日本語においては、非対格文や受動文のvがEPP素性を有することを示し、さらに、英語、イタリア語を日本語と比較して、この三言語における相違はvのEPP素性の有無に起因することを示唆した。この成果は、2006年12月に、論文"Subjects of Complex Predicates : A Preliminary Study"にてすでに公表している。B.日本語左方周辺部の談話的解釈に関する研究:宮川氏の分析を支持する最も強い証拠とされる計量詞主語と否定辞の作用域に関する事象を再考し、新たな方向性での分析を提示した。具体的には、TPの上位に位置する左方周辺部の構造を明らかにすることによって、この事象と主題化、焦点化を統一的に説明した。2007年1月の韓国言語学会における招待研究発表でこの成果の一部を公表しているが、来年度もこの研究を継続して行う予定である。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
Stony Brook Occasional Papers in Linguistics 1
ページ: 172-188
Form, Structure, and Grammar (Akademie Verlag, Berlin)
ページ: 255-273