今年度においては、これまでの研究を発展させ、従来導き出してきた制約群の相互作用が他の移動現象や構文にも働くことを示し、分析の言語学的妥当性・一般性及び他の現象の解明を目指すことを目標として研究を進めた。考察した具体的な言語現象としては、wh-移動に伴う主語・助動詞倒置とその言語差異、多重wh-疑問文、wh-島からの項・非項の移動に関する非対称性である。英語の多重wh-疑問文では、一つのwh句が移動し他のwh句は元の位置に留まるが、明らかに優位性効果が生じると思われる句の相対的配置にも拘わらず、容認される実例が多数存在する。こうした優位性効果は、移動したwh句による変項の局所的束縛の成立の有無に関わっていることが資料やデータの分析により帰納的に導き出された。また、wh-島が不定詞節を含んでいる場合、時制節を含んでいる場合と比較すると取り出しの容認度が向上するが、これは時制節と不定詞節を照査していくと、従来の分析では同じ構造を持つとされるこれら二つの節は、実際全く異なった構造を持ち、不定詞節は時制節と対照的に脱出口となる指定部を複数内包する特殊な構造を持つことで取り出しを可能にしていることが分かった。しかし、項の取り出しに関してはこうした対照性を示すが、付加詞の取り出しでは時制節、不定詞節を問わず容認性が著しく低下する。この違いも、実は移動の中間段階でのwh句による変項の局所的束縛の成立の有無に関わっていることが分かり、上記の制約の帰結として説明できることが結果として導き出された。 また、上記の制約が従来導き出してきた制約と如何に連関するか、またその制約の相互作用で広域な言語現象を網羅できるか確認するため、その一環として疑問文の習得に関する通時的言語資料を取り上げ、言語発達段階の通時的差異に関するパラメータがその制約の階層差異に還元できることを実証した。この研究成果は別紙平成17年度の研究成果にあるように、論文として纏めている。
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