本年度も引き続き通訳シュミレーションによるデータ収集を行なうと同時に、ネット上での通訳関連単語リスト(辞書)データ公開に向けてのサーバー整備なども行なった。 まず通訳シミュレーションは、若手およびプロの日独会議通訳志望者なども集めて毎月、および夏季休暇等に集中合宿の形で定期的に行っているものであるが、本年度も引き続き、例年以上に活発に行った。そこでは、かねてより本研究で注目している「失敗データベース」の観点から、さまざまな興味深いデータを収集することができた。これは、「どのようなときにどのような通訳者がどのような間違いを犯すか」というケースを収集し分析をすることによって、通訳上の過ちを避け、一層すぐれた通訳が可能となることが想定できるというものであるが、その観点からとりわけ英語教育分野で近年着目されているディスコースマーカー(談話標識)の重要性を認識するに至った。これは、つい逐次通訳におけるメモ取り技術において、いわば無意識のうちに、メモ帳左欄に記号化されて書かれてきた部分とほぼ一致するものでもあるが、ドイツ語関連の通訳やドイツ語教育への応用可能性が今後の課題として本研究の枠内でクローズアップされることとなった。 単語リストについては、依然、いかなる辞書の形で公開するべきか、とりわけオープン・データ化した際のデータの信頼性確保やセキュリティ対策など、技術的課題からかさまざまな試みが模索される段階にとどまったのが残念であるが、データは着実に集まりつつあり、次年度における公開をめざしている。 ドイツ語教育との関係では、これまでの研究をもとに、日独通訳関係のセミナーにおいて発表を行なった(於:上智大学。2006年11月18日)安易な通訳技術の初級語学教育への取り入れには弊害も大きく、なにより総合的言語能力を駆使して対処せざるを得ない通訳業務のごく一部の能力やトレーニング法(たとえばサイトラ、ノートテーキング)などを道具化して授業に導入する発想に伴う危険、あるいは、会議通訳等の経験のない教員が安易に通訳を語ることの危険は声を大にして指摘せざるを得なかったが、にもかかわらず、通訳を含めた職業教育の観点からは初級語学教育を見直す発想の重要性をある程度位置づけることもできたと思われる。来年度はさらに、以上の研究を進めることにより、失敗データベースや単語リストに関しては、具体的成果をあげてゆきたいと考えている。
|