本年度は本研究の初年度に当たり、主に八世紀から九世紀末の文献における親族名称の調査を行った。この間の文献は殆ど漢字表記のものであり、親族名称に関しては、中国のそれと密接な関係にある。従って、異なった親族体系を持つ中国の親族名称の導入のあり方が今年度の主な考察対象である。ただ当初一年間で行う予定であったこの調査は、内容が膨大になるにつれ、綿密に史料分析を行うためには、もうすこし時間が必要なことを実感した。現段階では、記紀、律令及びその注釈書である令義解、戸籍、籍帳などの調査を終え、現在のところ律令条文を中心に親族名称の調査結果を論文(「律令における親族名称-唐律令との関わりを中心に-」(仮))に纏めているところである。中国の親族体系を基礎とする唐律令の親族名称の使用法に注目し、男系女系の厳密な区別が「異字同訓」という処理法によって双系的に用いられた点、男系の複合大家族を前提にした唐律令に対して、日本律令においては、「父-子」の継承、所謂父子直系的な継承が最も重要視されていた点、親等、喪服、財産など当時の人々の生活に関係する条文において、重大な改変が見られ、それは日本固有の親族観念と強く結びついていた点を確認することができた。なるべくはやく論文を完成させ公刊発表したいと考えている。 一方古代中国の親族名称に関する研究動向を把握するために、中国の北京市で資料収集と研究交流を行った。ここでは本研究にとって参考となる中国古代婚姻家族史研究著書や親族呼称・名称の辞書などを資料収集することができた。また、調査期間中、首都師範大学で行われたシンポジウム「Cultural Interaction and Nationalism」に参加し、古代日本の婚姻形態と女性、日本古来文化と外来文化の関係について研究発表を行った。会場から受けた質疑応答も本研究に有益であったことを書き添えておく。
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