1、本年度の研究実施計画との関係 (1)山口県文書館における史料調査の結果、惣領家である大内介系統は、守護神である妙見神を独占することができず、祖先伝説の中で、支族である下松の鷲頭氏の存在を無視することができなかった。 (2)国文学研究資料館における史料調査の結果、近世の文芸に描かれた大内氏の「記憶」を明らかにすることができた。大内氏は公家をまねて堕落したとされ、江戸初期の「仮名草子」に見え、江戸後期には、浄瑠璃や歌舞伎にもよく取り上げられていたことがわかった。十返舎一九、曲亭馬琴などの小説家は、大内氏の祖先伝説を踏まえており、大内氏に関する詳しい知識を持っていることがわかった。 (3)津田徹英氏(東京文化財研究所)の教示に導かれ、千葉氏や大内氏のような一族内に内紛を抱える武家によって、一族統合のための守護神として、中国の道教的な新奇な図像が採用されたと考えるに至った。 (4)二階堂善弘氏(関西大学)の教示に導かれ、大内氏の奉じる妙見は、中国の民間信仰ではなく、北宋や明で国家的に奉じられた信仰(真武神)の影響を受けたものであったことがわかり、日本人宗教者による意図的な導入を想定する必要があると考えるに至った。 2、本年度の研究発表との関係 『下関市史』原始-中世(2005年12月発刊)の執筆において、赤間関(下関)における妙見信仰およびその担い手と想定される禅僧の活動について理解を深めることができた。一方で、ミネルヴァ日本評伝選『大内義弘』の執筆を進めており、大内氏の惣領家と支族の関係の中に妙見信仰を考察する必要性を認めるに至った。
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