当該年度は、部落問題を中心に据えながら、さらに他のマイノリティに対象を広げて関連資料を収集することに努めた。とくに、マイノリティの自他による表象を明らかにする上で重要と思われる自伝、伝記類の収集に力を注ぎ、その成果の一端を『続・人物でつづる被差別民の歴史』として世に問うた。瞽女、被差別部落出身の「からゆきさん」などの文献も収集でき、新たな領域に着手する第一歩が開けたと考えている。 さらに、当該年度は戦時下非常時における疎開・配給という局面に着目してマイノリティのありようと、ひいてはその観点からの地域秩序に関する研究に力点を注いだ。疎開残留を強いられた人びとや、沖縄、植民地、障害者の人びとなどの語りが、今日多く世に出るようになり、それらを読み解くことで、もはや既存の<都市と農村>という枠組みでは戦時における地域秩序のありようをとらえきれなくなってきていることが明らかである。アジア・太平洋戦争は総力戦ゆえにそうしたマイノリティをも動員して展開されたのであり、そこでも現実には差別が存在しながらも「国民一体」の範疇におかれた被差別部落の人びと、戦争の足手まといになるがゆえに遅ればせながら疎開の対象とされた障害者、などマイノリティごとに位置づけの違いが鮮明に浮かび上がる。さらには、本土に向かう疎開船が遭難事故に遭った沖縄、済州島、そして疎開の対象とならなかった島嶼の分析なども行った。それらは、都市と農村の位置関係の逆転、都市住民の被害性の強調に拘泥している研究のありようの見直しを突きつけるものにほなからない。 本研究の成果は次年度公刊予定であるが、同様に新たな局面に着目して、分析を進めていく予定である。
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