当該年度は、明治期の人類学者たちの日本人種論、日本人起源論を明らかにしながら、そのなかで被差別部落民がどのように位置づけられていたのかを、アイヌ、琉球の人びとと比較対象しながら明らかにするすることに努めた。『人類学雑誌』をはじめとする雑誌類の調査を行い、とりわけ鳥居龍蔵の主張に着目した。そうして鳥居は「日本人」のなかに被差別部落民を取りこもうと意図しながらも、モンゴロイド系ではないと断じることによって、被差別部落を「特殊」な集団として浮かび上がらせる結果をもたらしたことを明らかにした。さらには、内務省にあって日露戦争後の部落改善政策を指導した留岡幸助や、在野の香川豊彦・柳田国男らの言説が、それらを継承しっつも新たに「異種」性を共闘していったことの意味を、当該時期の国民統合政策などとの関連から明らかにした。 他方、しばしば起源において同一と見なされた朝鮮人をめぐる認識はどのようなものであったかについて、明治・大正期の資料から読み解く作業を行った。また女性や障害者、沖縄等のマイノリティについても、明治から昭和戦前までを考察し、その成果を発表してきた。
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