本研究の目的は、20世紀前期(明治末〜昭和戦前期)の地域社会の歴史像を構築した郷土史家の歴史学的方法論と歴史叙述に表れた歴史的構想力について考察を行い、彼らが地域社会のアイデンティティーの創出、地域の歴史的起源や文化的多様性の発見、地域の再生にどのような役割を果たしたのかを解明することである。 今年度は、次の調査・研究を実施した。(1)愛知県の郷土史家である津田応助の関係史料(象山文庫)が所蔵されている小牧市図書館の調査を行い、彼が編纂した郡町誌関係の史料、津田日記などの所在を確認し、一部の撮影を実施した。(2)津田編『贈従五位林金兵衛伝』の編纂の過程を知ることができる『林金兵衛家文書』を購入し、整理作業を実施した。ここには林金兵衛の地租改正反対運動に関する貴重な史料も含まれており、明治前期の尾張地域史の実証研究にも貢献することができる。(3)三重県の郷土史家たちの動向を知ることができる『三重県史談会々志』を購入し、三重県史談会の設立・会員・掲載論考などについての整理を始めた。(4)滋賀県の郷土史家・中川泉三の著作集を検討し、彼の郷土史の方法論と実証内容について検討を始めた。(5)東海地域の地域史的特徴を検討するために、治水・治山や史蹟に関する実証研究を行い、その成果を公表した。
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