昨年度までの成果として、出雲国正税返却帳が摂関家家司受領藤原行房の出雲守任期にかかわり、その受領功過のために作成されたものであることを推定した。それをより明確に実証、論証するため、本年度はまず10〜11世紀の出雲国司をすべて調査し、合計27人を検出し、その任期と在任期間中の動向を明らかにするとともに、正税返却帳に記される勘出や公文勘済、受領功過との関係を検討した。出雲国正税返却帳は承暦2年12月末日付で作成されているが、それは藤原行房が美濃守に任命されるための前提として、出雲守時代の受領功過をうける必要があり、そのための公文勘済の一環として作成されたものであると考えた。それを論証するため、藤原行房の美濃守の任期を承暦3年(1079)〜応徳3年(1086)であること明らかにしたが、その過程で東大寺文書の「東大寺封戸文書書上」の分析をおこない、東大寺の封戸惣返抄の発行状況は、それぞれの受領の任期と公文勘済、受領功過に対応することを明らかにした。これは、従来の同文書を使った封戸制度研究では見落とされていた点で、平安中期以降の封戸制度の展開、変容を受領の公文勘済と受領功過の面から見ていかなければならないという新たな視点を提示しえたものと考えている。 以上をふまえ、昨年度までの成果とあわせて総括し、出雲国正税返却帳の作成事情、10〜11世紀の出雲国司、藤原行房、東大寺封戸惣返抄と公文勘済、受領功過についてを成果報告書としてまとめた。とくに、出雲国正税返却帳と公文勘済、受領功過の分析を通じて、その作成事情が摂関家家司受領藤原行房との関係で明らかにされたことは、この史料をさらに分析し平安中期から後期の財政と受領をめぐる研究を展開していく上で、重要な意義をもつものと考える。
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