東京国立博物館所蔵九条家本延喜式裏文書の出雲国正税返却帳について、デジタル画像による現状の観察、延喜式諸写本の調査を行い、その結果をふまえ、延久2年(1070)・3年・4年・承保元年(1074)・某年の各年度ごとに断簡を復原し翻刻した。復原にあたっては、表の延喜式巻9・10の形状、書写形式を他の延喜式巻9・10の諸写本の調査とその結果ふまえて検討した。従来、出雲国正税返却帳の翻刻テキストとしては、延久2年帳を他年度帳で補訂した『平安遺文』所収のものしかなかったので、各年度帳の出来うるかぎり正確な翻刻を提示する意味はあると考えられる。また10〜11世紀の出雲国司について27人を検出し、その任期についても史料的に可能な限り明らかにした。あわせて正税返却帳の勘出内容、およびそれぞれの公文勘済と受領功過との関係も示した。その結果、「出雲国正税返却帳」は、摂関家家司で延久3年(1071)〜承保元年(1074)か2年(1075)ころに出雲守となった藤原行房の公文勘済のなかで作成されたものであることを指摘し、学術雑誌論文「家司受領藤原行房と出雲国正税返却帳」・として公表した。またその過程で東大寺封戸惣返抄についても検討し、受領の公文勘済と功過に連動して発給されていることを分析した。報告書には正税返却帳の翻刻、正税返却帳の現状と延喜式諸写本調査の結果、10〜11世紀の出雲国司、藤原行房について、東大寺封戸惣返抄と受領功過についての成果を収録した。
|