平成18年度の研究実績は、下記のとおりである。 1)王朝国家軍制に関する基礎データ(反乱、群盗海賊蜂起、鎮圧手続き、軍事動員に関係する記事)を、主として六国史・古記録・『平安遺文』などから収集・整理・入力した(継続中)。 2)律令軍制論の視座から律令国家論・奈良朝政治史論を展望することをめざし、8世紀における律令軍制の展開過程について、軍拡路線(対新羅強硬外交、兵士増員、戦時体制、国内統制強化と財源収縮)と軍縮路線(対新羅消極外交、兵士減員、規制緩和、財源拡大、建設事業活発化)の交替として現れ、前者は藤原政権、後者は皇親政権に対応している、などを主要な論点とする研究をまとめている(継続中)。 3)本研究に関連する既発表論文のうちワープロ入力していない2編(「日本律令軍制の基本構造」史学研究175、「日本律令軍制の形成過程」史学雑誌100-6)をスキャナーしてワープロ原稿化する作業を行い、著書『日本律令軍制の研究』(仮題)としてまとめる基礎作業とした。 4)本課題の一環をなす関連研究として、『山口県史通史編原始古代』に「軍団と兵士」「変動期の瀬戸内海地域」「対外緊張と周防・長門地方」を執筆した。「軍団と兵士」では、国境検問所ともいうべき関門海峡に位置する長門国の軍団、とくに豊浦団の特殊性を解明し、「変動期の瀬戸内海地域」では、9世紀の海賊問題を調庸雑米未進問題=律令財政構造の破綻と形骸化のなかで必然的に生起する問題としてとらえ、「対外緊張と周防・長門地方」では、防人・山城など8世紀前半の九州北部・瀬戸内海の防衛システムの役割は、新羅使入朝時に効果的に作動する朝貢国新羅に対する威圧機能であり、新羅との朝貢関係=帝国主義的関係を維持固定する機能を果たすシステムだったことを論じた。
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