本年度の研究によって、申請者がこれまで研究してきた軍制史研究を集大成する足がかりが得られた。これまで2つの方向から軍制史研究をすすめてきた。 第一の8世紀律令軍制研究では、律令軍制を、朝鮮半島を統一した新羅との朝貢関係を維持・強要するために建設した大規模徴兵制軍隊ととらえ、その構造と形成過程・展開過程・解体過程の解明をすすめ数編の論文として刊行してきた。しかし展開過程については概要を公表しただけでその全体像を公にしていなかった。また訓練における精神教育の役割について、古代のナショナリズムという視点から深化させる研究をすすめた。本年度の研究によって、この2つの課題について論文にまとめる準備ができた。また申請者の律令軍制学説への最近の批判に対する批判を兼ねた兵士任務に関する実証的論文を用意したので、これを研究報告書に掲載する。 第二の10〜12世紀の王朝国家軍制研究では、国家の軍事指揮権の発動としての「追捕官符」をキーワードに、反力武装蜂起を抑圧するための国家の軍事力編成の構造、その形成過程・展開過程について、武士の形成過程との関連において解明をすすめすでに10編近い論文を公表し、その全体構想を拙著『武士の成長と院政』(講談社日本の歴史07 2001年)で明らかにしているが、今年度は、申請者の学説をみずから再検討し、院政期の国家軍制、倉幕府守護体制への展開について明確な展望を得た。再検討作業の一環として、あらためてキーワードである「追捕官符」史料を収集整理し、それを研究成果の一部として報告書に掲載する。 本研究によって申請者の律令軍制研究・王朝国家軍制研究はほぼ完結した。この成果を踏まえて、『日本律令軍制史研究』『日本王朝国家軍制史研究』刊行の準備を進める予定である。
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