本年は、課題研究の最終年度であるため、採訪した研究資料(文書類や古記録)の整理を行う一方、より地域にそくして大宰府による支配と地域社会の動向が具体的に検討できる歴史事象をもとめて、九州地区の文化財調査情報を収集するとともに、その可能性がある地域のフィールド調査を実施した。主として年度前半は、昨年度までに整理していた平安時代の九州関連文書をデーター化するとともに、古記録類に関しては記事の編年化を試みた。とくに前年度から追究していた豊後国日田郡の在地領主であり相撲人としても都の貴族に知られていた日田大蔵氏の登場を考えるために、11世紀後半の時期にポイントをおいて整理した。また古文書類に関しては、すべての史料を入力し、観世音寺文書や河上神社文書など収集できた写真版と対照させながら作業をすすめた。これらは、今後の西海道研究を遂行していくうえでの基盤的成果と考えている。 フィールド調査に関しては、校務との関連から主に年度の後半に実施した。近年自動車用道路や新幹線建設などで埋蔵文化財調査が進んでいる南九州(鹿児島・熊本)についは、その調査状況を確認するために現地におもむいた。とくに南九州では平安時代の後期に埋経や造寺・造仏などが盛んになっていた状況が確認できているが、その時代的変遷が想定できる熊本県宇城市の浄水寺の調査を行った。しかしこの地域の調査は歴史地理学的にはいくつかの成果があったが、文献資料との対照という点で、やや分析対象としてはやや問題があることを感じた。その点でむしろ魅力を感じたのは、大分県国東市の飯塚遺跡である。近年の調査や出土木簡(現在保存処理後の再読作業が行われている)などによって、古代国家転換期の、地域社会における宗教的権力による、封戸などを核にした荘園経営の萌芽的状況が確認できる可能性があり、現在はこの素材を追究している。
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