本研究は、日本古代史の実相を明らかにするためには、地域史像の構築が不可欠であるという研究視点にたち、従来等閑視されてきた平安時代中期を中心とした古代国家転換期前後の地域社会の様相を、主として西海道諸地域(九州)を対象に検討し、同時に古代地域史研究の方法論的発展をめざそうとするものである。課題研究の申請時に、対象とする問題の大きさと広さは十分認識しており、むしろ問題はその基礎的・基盤的作業をどの程度実現しうるかという点にあると考えていた。その意味では、今回の3カ年の作業をとおして今後の研究の方向と、さらに深化・追究すべき課題がみえてきたと考える。 具体的には現在検討中の国東市飯塚遺跡の調査をとおして、古代国家転換期の、地域社会における宗教的権力による、封戸などを核にした荘園経営の萌芽的状況が確認できるのではないかという点であり、日田大蔵氏と研究成果報告書中の「平安期九州関係古文書集成(草稿)」所収の「二五二三 筑前国観世音寺領大石山北封并把岐荘司等解案」にみえる「溝口三郎大夫」「三毛大夫季実朝臣」との関係など、記録史料と文書史料のきりむすぶところに、古代社会転換の主体である在地領主の成立や、大宰府役人と地域との関係などが明らかになってくるのではないかという見とおしである。今後はこのような視点から、古代国家転換期である平安期の九州について、さらに検討を重ねていきたいと考えている。
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