平成19年度は、以下の研究活動を実施した。 1. 研究発表と論文作成 過去2年間集積してきた中世生業語彙データの内容分析を行い、その研究成果を以下の通り発表した。(1)魚介類を対象とした考察については、滋賀県立琵琶湖博物館の展示「琵琶湖のコイ・フナの物語-東アジアの中の湖と人-」の企画に参加し、関連のシンポジウム「東アジアにおける生き物と人」で「魚食からみた中世の漁撈」と題する報告を行った。(2)15世紀の日記記事物品データを活用した研究成果は、2007年度日本史研究会大会シンポジウム「15世紀を問う」で口頭報告し、本報告内容を成稿した論文「モノからみた15世紀の社会」を『日本史研究』546号に掲載した。 本研究の理論的検討の成果は、論文「生業論の登場と歴史学」にまとめ、国立歴史民俗博物館編『生業から見る日本史』に掲載された。本論文では、歴史学における生業論の登場と展開を跡づけ、生業史研究の意義と射程を明確に示した。なお、春田の編著である『日英中世史料論』に寄稿した「荘園土地台帳の内と外」は、制度史料から生業情報を引き出すために必要な史料論的検討の成果である。 2. 現地調査(有明海・阿蘇・菊池) 平成19年度は、5月に有明海水系の大川・柳川の漁業者に伝統的漁法と現在の生活環境について取材した。9月には阿蘇市小野田でムラの環境利用の歴史を復原的手法で調査し、1月に菊池市下河原で歴史地名(環境認識語彙)の可視化作業に関する現地踏査を実施した。そして、3月には阿蘇北外輪山で野焼きの参与観察を行い、草原資源の利用・管理実態を調査した。なお、阿蘇での調査成果データの整理は熊本大学教育学部日本史研究室の学生に協力を求め、謝金を支出した。
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