本年度は、1生業史研究のための史料論の検討、2山林原野の空間利用に関する研究、3阿蘇地域の生活共同体とその環境利用に関する現地調査を実施した。 1.生業史研究のための史料論の検討 2008年7月に編集・執筆した『日英中世史料論』を刊行した。本書では、中世生業史研究の基礎史料となる荘園土地台帳に記載された土地情報の動きを跡づけることで、生業史データを獲得する上での史料批判の方法を具体的に示した。また、土地帳簿に記載された歴史地名の語彙分析から景観・生業の情報を読みとる手法についても検討を進め、その成果の一端は、総合地球環境学研究所の景観ワークショップにおいて「現代景観の古層をさぐる-地名語彙分析からのアプローチ-」と題して報告した。いずれも国際的な学問交流の場で公表した研究成果で、海外の研究者からもコメントをもらっている。なお、9月には連携研究者と中世生業語彙の集成について意見交換をおこなった。 2.山林原野の空間利用に関する研究 阿蘇北外輪山を対象に、山林原野の空間利用が中世以降どのような変遷を経て近代に至ったかを、明らかにした。この研究成果は、シンポジウム「阿蘇・くじゅうの草原の歴史と未来をさぐる」で「阿蘇北外輪山の空間利用史」と題して報告した。なお、本シンポでは地形学・生態学・考古学・民俗学・農学・経済学など多様な学問分野の研究者と研究交流ができた。 3.阿蘇地域の生活共同体とその環境利用に関する現地調査 8月と1月に中世阿蘇社領の故地である小倉地区で、生活共同体とその環境利用に関する現地調査を実施した。また、一昨年度より調査を継続している同じく阿蘇社領故地の小野田地区の現地調査の成果は報告書にまとめ、3月に『阿蘇谷中央のムラの営みと歩み-熊本県阿蘇市大字小野田地区の現地調査-』を刊行した。この報告書作成作業には研究補助者の協力を得た。
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