本年度は研究期間の初年度にあたり、当該研究を進めるために必要な学術図書や史料集、そして自治体史の購入に努めた。特に、中近世移行期の対外関係や社会経済史に関する研究図書や史料集について、新刊本・古書の形で購入した。 また、本年度は石見銀山や温泉津関係の史料を蒐集するため、島根県内で出張調査を実施した。まず、島根県立博物館で戦国期の温泉津関係史料である「石見石田家文書」を閲覧・写真撮影したほか、石見銀山の地役人の家文書であり、中世末期の銀山の実態解明に不可欠の「吉岡家文書」の原本を確認した。前者はまったくの新出文書であり、温泉津を拠点に毛利氏と緊密な関係を結びながら海上輸送に従事する武士的商人の存在を示す好史料であったほか、後者も従来確認されていた点数以上に毛利時代の史料が確認できた。また、石見銀山資料館や島根県教育庁文化財課、あるいは大田市教育委員会温泉津分室での出張調査により、戦国末期から近世初期の石見銀山や温泉津関係の新史料を入手することができた。このように温泉津関係史料については、中近世移行期の社会経済の構造的変化が解明できる貴重な史料群が多数残っている可能性が窺われ、来年度以降もさらに調査をすすめる一方、蒐集した史料を分析し、その成果を随時公表していきたい。なお蒐集した史料は、デジタルカメラで撮影した電子データが中心であるが、現在、検索可能な環境を整備するため、電子データの管理方法について検討を始めている。 最後に、当該研究とも関連するので付言するが、これまで進めてきた中近世移行期の貨幣流通と石高制の成立に関する研究成果により、本年度途中(5月)に博士(文学)の学位を得たので、現在、加筆修正して学術図書として刊行するため準備しているところである。
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