本年度は、研究期間の2年目にあたり、昨年に引き続き、当該研究を進めるために必要な学術図書、特に中近世移行期の政治経済や社会文化に関する書籍や関係史料集を購入した。 昨年、島根県内で実施した出張調査の際に写真撮影して蒐集した「石見石田家文書」や「吉岡家文書」について具体的な分析を進め、その成果報告を7月末に石見銀山関係の研究会でおこなったほか、温泉津町で実施した現地調査をふまえた成果報告を大田市主催の石見銀山観光ガイド養成講座の記念講演でおこなった。 史料調査は、福岡県立図書館や和歌山県立博物館をはじめ、国内各所で古文書調査の形でおこなったが、特に山口県文書館では諸種の文献資料のほか、毛利氏八ケ国御配置絵図について写真撮影とともに筆写作業をおこなった。これは戦国大名毛利氏が、天正15年以降領国規模で実施した惣国検地の結果をふまえ、文禄年間に知行高や給与対象者について調整し直した経過が具体的にわかる絵図であり、豊臣政権下の毛利氏による権力編成や領国支配の実態を窺い知ることのできる貴重な史料である。墨書の上に朱で加筆した箇所を丹念に分析することにより、それがわかるが、今年度は特に安芸国および石見国について写真撮影をおこなう一方、黒・赤2色の鉛筆を用いて筆写することにより、分析のための素材を蓄えた。 このほか、ここ数年にわたり取り組んできた中近世移行期の貨幣流通と石高制成立の研究成果に当該研究の成果も一部盛り込み、『戦国織豊期の貨幣と石高制』の書名で吉川弘文館から学術図書を刊行した。また、戦国期から織豊政権期を経て徳川政権成立期に至るまでの貨幣(金・銀・銭)や米の状況、そしてそれらへの地域大名や中央政権の政策的対応について、西国・畿内・東国という地域区分のもとに明らかにした論考も執筆した。これは、「貨幣の地域性」をテーマとする論文集の一章として、来年度中には活字化される予定である。
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