本年度の研究実績は大きくいって三つにわけることができる。一つめは基本史料の調査と研究文献の収集であり、二つめは自らの賤民制研究の進展であり、三つめはその他である。 史料調査先としては、東京大学東洋文化研究所、東洋文庫、京都大学人文科学研究所、東大寺図書館などがある。賤民制関係史料の収集ならびに通行本の校訂などを行い、従来知られていない重要な情報を入手することができた。とりわけ、『唐会要』の旧抄本の調査では、中国の官賤民に関する史料上の重要な問題を発見することができた。また、東京都立中央図書館や東京大学文学部図書館、東京大学史料編纂所などで関連する研究文献の収集を行い、研究史の検討を進めることができた。これ以外に、平城宮で官賤民使役されたとされる宮内省官衙址の実地踏査も行うことができた。 論文執筆を前提とした賤民制研究として、具体的には、日本古代と対比するために中国唐代の賤民制研究を行ったが、その中でも外国奴隷の輸入問題を通じて、唐代賤民の供給源について再検討することができた。この賤民供給源の問題は、日本と唐の違いを示すものであり、日本の賤民制の特質を明らかにすることができるのではないかという見通しを得た。関連する研究史の整理を終えた段階で、論文執筆に移りたいと考えている。 以上の実績以外には、書評論文1本と単行本所収論文1本、それから学会での口頭報告1本(東方学会シンポジウムのコメント報告)の発表があった。
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