本年度は、のべ1011家あった華族の家族のありかたを整理分析した。まず、1011家という数値については、諸史料によって、1010家、1011家、1016家と説が分かれていたが、これは再授爵した家が6家あり、それをどうあつかうかによって異なっていた。そして、再授爵した家でも、乃木家の場合だけは、血族でも姻戚でもなく、かつての主家である毛利家の分家が祭祀を継承して乃木を名乗り、のちに爵位を返上して再び毛利となったため、別家扱いとして1011家説をとることにした。このことも華族の家制度を考える場合、重要であるので、あえて明記しておく。さて、その1011家の家族制度であるが、本年度は、華族制度の歴史をまとめることとした。華族は明治2年から昭和21年までの時期に存在したが、その制度と個々の華族たちの歴史的活動についてまとめてみた。この成果の一部は、本年3月25日に中央公論新社から『華族』と題して刊行する予定である。同書は、華族の通史について基本情報を整理したものであり、従来、その類書はなかった。同書では、可能な範囲で、本研究の主題である華族の家制度や華族家の女性についても言及した。とりわけ、2代目、3代目の華族の家制度は、経済的変動も加わって変質していくことを述べ、婚姻関係も名誉家と財閥家との融合などが進み、女性のライフスタイルも多様化して、ある者はスキャンダルに関わり、ある者は職業婦人となるなど、かつては女官のみであった華族女子の職務を社会的に開放していった。とくに昭和20年の敗戦後は、特権層としての政治的・経済的没落が加速する一方で、議員になったり、社会福祉に貢献したりするなど、華族女子の自立と社会進出が増えていく。このことは、戦前日本の家制度のシステムの変質であり、また華族制度によって保持されてきた男系社会の崩壊の兆しでもある。今年度は、こうした問題をさらに深め、戦後社会との具体的な検討を進める。そのため、現在は、華族家の女性の問題を、家族史の観点から整理し分析し、家の継承スタイル、躾と性愛のあり方、閨閥のあり方などを具体的にまとめている。とりあえずは、華族女性年表と華族女性リストを作成し、『華族家の女性たち』と題して、その研究成果をまとめる予定で準備をすすめている。
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