高野山大学図書館・国立歴史民俗博物館・国立公文書館内閣文庫などに出張し、空海や平安仏教史に関係する写本類を調査して、弘仁・天長年間の歴史的事実を復元する手がかりを探した。また、東寺観智院金剛蔵や国文学研究資料館などから紙焼写真を購入し、活字史料との対照を進めた。この他、謝金を用いて、弘仁・天長期の逸文史料を収集し、これらをもとに時系列一覧表データを作成する作業を開始した。これまでの日本古代史研究では仏教史料をきめ細かく追跡することが行われていないため、空海関係史料に限っても、弘仁・天長期の歴史的事実を復元しうる史料が数多く存在するという印象をもっていたが、作業を進めるにつれて、ますますその気持ちが強まってきている。 研究課題としては、今年度は空海の灌頂授与に焦点を絞り、弘仁13年(822)における平城太上天皇への灌頂授与の歴史的意義を探り、第38回日本古文書学会大会において「平城上皇の灌頂と空海-正倉院出納文書の検討を中心にして-」と題して口頭報告を行った。正倉院玻璃装文書のなかに平城上皇の灌頂に関わる新たな文書が存在することも報告されたので、平城上皇に対する空海の灌頂授与は歴史的事実であったと結論づけてよいであろう。『平安城太上天皇灌頂文』の古写本が存在することも確認できたので、来年度にかけてテキストの校訂を行いたいと患う。空海関係史料を収集する過程で、原本『東宝記』の記載から、桓武天皇の皇位継承に関する遺勅の存在を知ることができ、平城朝における皇太子廃立問題についての論考を発表した。
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