研究概要 |
科研初年度にあたる今回は、おもに武庫郡上瓦林村岡本家文書の収集・整理に主眼を置き、大庄屋入用関係文書、役方御用日記、万日記など、尼崎藩大庄屋の具体的職務内容が明らかになる史料類を中心に焼き付けを行った。他方、地域の社会構造を明らかにするという点では、岡本家の管轄行政区の戸口関係史料を部分的に収集するにとどまった。これら史料の分析を通じて、1,尼崎藩領の地域的入用は、大仲間入用(郡中レベル)と仲間入用(組=1行政区レベル)との2レベルに分けられること、2,大仲間入用では、大庄屋七人の参会時における町宿諸賄費を中心にしつつも(全体額の約4割)、殿様献上諸品代も少なからず見られること、3,大庄屋には各々毎年銀100匁宛の小賄料が認められていること、4,大仲間入用には、他地域の場合にしばしば見られる庄屋層の立替入用が一切計上されていないこと等が明らかとなった。5,仲間入用では、灘屋、鯛屋といった用聞が関与した経費が多く認められ、6,各村庄屋の立替入用は比較的少ないといった特徴が明らかとなった。これらのことから、尼崎藩の大庄屋制は、大庄屋仲間の「閉鎖性」が他地域と比べて比較的強いこと、町場の用聞が組行政に関与する度合いが高かったこと等が窺われる。次年度以降では、上記の諸特徴をさらに詳細に明らかにするとともに、どの時期からそうした特徴が顕著になったのか等、時期的な問題も明らかにする必要がある。尼崎藩地域は18世紀以降農村商工業が高度に発達した地域として著名であり、国訴などの広域訴願運動が高揚した地域でもある。これら当地域の社会経済的状況と尼崎藩大庄屋制の地域的特質との関連性追求も今後の課題である。
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