昨年度に引き続いて今年度も武庫郡上瓦林村岡本俊二家文書を中心に史料の収集と分析を行った。今年度は、大庄屋の公的な役職に関する史料として、岡本家文書中に収められた巡見使・奉幣使関係史料などを重点的に収集し、焼き付けした上で分析に着手した。他方、当地域の大庄屋の社会経済的地位については岡本家の個別経営史料の分析が必要であるが、今年度は十分に検討できなかった。地域社会構造の一端を物語る素材としては、岡本家が支配した行政区内の人別移動という点などから分析を行った。具体的には、瓦林組を構成する31ヶ村の天保期以降明治初年までの人別移動について、生死者・領分参人・他領参人・領分遣し人・他領遣し人などの区分に従って、村ごとに増減の傾向を把握し、おなじ瓦林組構成村であっても異なる類型の村々があることなどを確認した。次年度ではこうした村ごとの類型の違いをさらに多角的に押さえたうえで、地域有力者の分布状況などとの相関性について検討する予定である。 尼崎藩領では岸和田藩領などと同じように、在村の宗教者や諸社会集団の人別支配にも大庄屋が深く関わっている。こうした事態は中間地帯の藩領では比較的希なことであり、畿内の大庄屋制がもつひとつの特徴と思われる。元禄期尼崎藩領では、有力社の神職が白川家等の本所支配に加えて奉行-大庄屋-庄屋という系統でも統制されていた。今後は百姓身分以外の諸身分の支配に当藩の大庄屋がどの程度関わっていたのかなどという点についてもさらに追究する必要がある。
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