本研究の目的は、近世アジア貿易圏において琉球がはたした役割と歴史的変遷について、東アジア世界の朝貢貿易というマクロな視点をふまえて、国境を越えて動いた「モノ」や「ヒト」の流れをめぐる実態について、具体的に明らかにすることである。 北京の中国第一歴史梢案館には、進貢貿易の実態を探る上でも史料的価値のきわめて高い公文書が多数所蔵されている。近年公開されつつあるこれらの档案史料に含まれる琉球関係の貿易データから舶載品の種類・数量・流通などの実態を解明し、日本側史料とあわせてさまざまな角度から分析を加えた。 本年度の前半ではまず、東アジアにおける流通動向を念頭におきながら、琉球をめぐる「茶」の動向について具体的に分析した。とくに輸入数量の変動を把握するだけではなく、「紙漉方井茶園例帳」や『唐茶製法伝授書』などの史料から久米島や八重山などでの製茶の始動についても明らかにした。また、中国から琉球へ輸入された「茶」の実態のみならず、日本茶がどのような形で琉球に伝来したかという点についても考察した。後半では、3年間の研究期間で取り上げた「薬種」・「紙」・「茶」という「モノ」について、これまで収集したデータおよび史料をもとに、輸入品目や数量の分析にとどまらず、国産化をめざした王府の政策やその技術伝播についても分析し、報告書にまとめた。 琉球・中国・日本側の関連史料を比較分析した本研究によって、アジア貿易圏における「モノ」の流通ネットワーク、とりわけ琉球を中心とした貿易構造の一端が解明できた。
|