研究課題
今回の研究によって、文字と印刷のかかわりをモノから検討する試みを行うことができた。研究の目的でもあった印刷をモノという視点からの資料調査は大変広範囲に及んだが、今回の研究により多くの地方資料を検討する機会を得ることができた。当初より検討しできたモノの歴史的な意義付けを行う課題は、大きく進展したと考えている。モノの歴史的背景には、いくつかの過程があり、特に労働における技術史的な展開には、大きな変化があったことが認められた。近代化当初は、伝統的技術に裏打ちされたもので、経験による知識が重視されたが、近代的技術導入によって、これまでのハンドメイドのモノから製品としての欧米を基準とした工業規格に変えざる得ない状況に置かれてしまった。そのため、これまでにない高度で複雑な技術と利学的な高い知識が必要とされるようになった。しかし、このような明治維新から間もない時代に急速な工業化が進んだのは、これまでの経験的「モノ」の中に西欧にはない日本古来の技術や、知識が備わっていたことが明らかになった。特にこれまでのような史料研究ではなく、「モノ」としての印刷物を技術史としても検討することができたと考えている。とくにこれまでの民俗資料としての民具への検討や記銘民具といった研だけではなく、モノを媒介して庶民の経験的な「知」に及ぼした影響についての思想や行政資料についても検討を加えることが出来た。一例として検討した相撲資料についても、文化的な観点と印刷技術的な観点からの検討を加えることにより新しい観点から相撲を捉えることができた。又、こうしたことも含めて多くの資料調査から印刷を中心とする産業構造についての新知見を得られたと考えている。