研究概要 |
本研究は、中国王朝の官印制度の集大成といえる清朝の官印制度の特徴を解明した成果をふまえて、時代を遡って,各王朝の官印制度の変遷とその特徴を明らかにしようとする研究課題の一環として、清朝の前王朝である明朝の官印制度を明らかにすることを目的とした。具体的には、明朝の官制の変遷を確認し、その中での官印の種類と発給、特に明朝においてはじめて採用された、印背の刻字と「関防」印の出現について、それぞれの背景を考察することに注意した。 その結果、(1)印背の刻字として、これまでの「製造年月」、「製造部署名」に加えて、前代の遼・金・元朝の民族文字印(契丹文印、女真文印、パスパ文印)に刻されていた民族文印文の漢訳文が、漢文印である明朝の官印にも踏襲されて、印面の印文と同じ文が印背にも刻されたこと、(2)同じ刻字でも、印側に製造番号といえる「編号」がはじめて刻された。それによって王朝の官印管理体制がいっそう完備されたものになったことが判明した。(3)明朝に出現した長方形の「関防」印について、これまで通説のようにいわれていた洪武帝時代(1368-1398)ではなく、当初は宣徳帝時代(1425-1435),に内府で一部の宦官に給付され、のちに正統帝時代(1435-1449)に一般官員に発給されたことが史料的に確認することができた。さらに、(4)遼東都指揮使司の各種官印を整理し分析することで、支配体制の中での官印の機能、運用の具体像を素描できた。かくして、官印に係わる罰則規定をふくめた明朝の官印制度の全体像を、各種の官印の印影を提示して明らかにし、明朝の官印制度がほぼそのまま清朝のそれに継承されたことを確認できた。
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