イスタンブルのアヤソフィア・ワクフの事例をもとにイスラム宗教寄進制度(=ワクフ制度)の歴史的展開を追う本研究の初年度にあたる平成17年度には、次の研究を行った。 1.資料調査--平成17年8月にトルコ共和国イスタンブルに位置する総理府オスマン文書館において、アヤソフィア・ワクフ組織収支台帳、ならびにワクフ財源調査台帳の調査を行なった。続いて、平成17年12月〜平成18年1月にドイツのベルリン国立図書館において、ワクフ関係のファトワー文書の調査を行った。これは、当初平成17年度に予定していたブルガリアのソフィア国立文書館における調査を平成18年度実施に変更し、かわって平成18年度に予定していたベルリン国立図書館における調査を今年度実施したものである。本資料調査の結果、総理府オスマン文書館に所蔵されている多数の関連資料の複写を入手することができた。 2.ワクフ財源賃貸店舗情報のデータベース化--上記、資料調査によって入手したデータを解析し、イスタンブルのグランドバザールを中心とした商業地区に16世紀〜17世紀に存在していた店舗のデータベース化に着手した。地区名、賃貸者名、賃貸料などを含んだデータベースは、イスタンブルの地名・人名データベースの一部ともなる予定である。 3.1496年付けアヤソフィア・ワクフ調査台帳の校訂作業--本研究で利用する資料のうち、もっとも重要なものは総理府オスマン文書館MaliyedenMudevver No.19に整理された「1496年付けアヤソフィア・ワクフ調査台帳」と考えられる。それは、同史料が寄進文書に続いて古いこと、また、寄進文書の建前が実社会でいかに運用・活用されていたかを示す財源調査の台帳であることによる。現在、アラビア語とオスマン語の混在するテキストの解読をほぼ終え、テキストの入力を開始した。平成18年度には、同史料の校訂作業を完成する予定である。
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