本研究の根幹をなす明版書の書誌調査については、正徳以前の明代前半期刊本を中心に90余部の調査をはたした。これにより、この四年間に新しく収集しえた書誌は550部、またこれを本研究開始以前から蓄積していた書誌1900部と合わせれば2450部となり、その数量はほぼ当初の計画どおりのものとなっている。なおこの2450部という数字は、従前の書誌研究中もっとも多くの明版を著録している王重民『中国善本書提要』(1983)を上まわるものであり、またそのうちには王著をはじめ中国人による研究書未著録のものもすこぶる多いことから、当該分野の研究に対し、相当の貢献をなしうる成果だと言ってよい。 蓄積された書誌の知見目録化については、今年度はもっぱら明代前半期刊本の整理に注力して約110部の入力をおえ、累計で約800部の書誌が整理済みとなった。この知見目録は、当初の予定ではそのうちの一部、すなわち明代前半期刊本部分を冊子体の形で公表するはずであったが、要求される報告の形式が変ったため、冊子化による公表は全体の整理を終えた後に、改めて完全な形で行なうこととした。 収集された書誌資料を用いての研究は、その成果の一部を東洋史研究大会(京都大学)ならびに北京論壇(北京大学)において発表し、そのうち後者については学会の報告冊子中に論文として収めた。なおこの論文は、明初以来はなはだ衰微していた出版が、いかにして復興を遂げ、さらに空前の繁栄に向かうのかという問題につき、その変遷過程を事実と理念の両面から説いたもので、北京大学歴史系より改めてその機関誌『北大史学』に掲載したい旨の要請があったので、いくらか訂補を施して改訂稿とした上、該誌編輯部に送付した。
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