研究概要 |
本年は昨年までにサヤン・アルタイ方面で蒐集した古代テュルク語時代の碑文や岩絵銘文関係の諸資料について近年までのトルコ文献学及び歴史学的成果を踏まえて,再検討を加える作業を継続して行った。その中でも今年は,昨年までの調査で,私がサヤン・アルタイ方面と中国新彊アルタイ県で現地の研究者と共同調査した石人遺跡や銘文画像における遺跡の景観や遺物の集積状況から,古代テュルク系遊牧民は,青銅器時代などの遺跡文物そのものに対して崇拝の念や信仰を抱いており,それら古代の遺跡を再利用する形で自らの記念碑や墓石を建造させたことを突き止めた点は重要な成果であろう。この成果を含む遺跡の分析結果については国外で開催された国際学会で公表すると共に,これらの点について現地研究者とも積極的に意見交換を行った。今後はユーラシア遊牧民間における異なった時代の遺跡に対する崇拝観念という観点からも,古代テュルク系遊牧民の遺跡が建設された背景について考察を加える必要があろう。 まず2007年5月にはトルコ共和国のイズミル市で開催された「第1回国際ユーラシア考古学会議」では国際諮問委員の1人として参加すると共に,これまで私が現地の研究者と調査した古代テュルク系遊牧民間における青銅器時代の岩絵銘文や埋葬遺跡への崇拝観念があることを紹介した。現在のユーラシア考古学界の最前線の調査現況についての報告に接することができたことは大きな収穫である。また同年10月にロシアのブリヤート共和国のウラン・ウデにおいて私が実見した古代テュルク時代の碑文の信仰的側面と王権との関わりについての研究発表を行なうと共に,その帰路にはロシア連邦イルクーツク市歴史博物館の文書館で,かつてN.M.ヤドリンツェフが19世紀末にモンゴリアやゴルノ・アルタイで実施した考古遺跡調査に関わる記録類や写真資料の調査を行った。
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