平成18年度は、主に「雲夢龍崗秦簡」の注釈の再検討と、禁苑に関する出土文字資料や日中両国の禁苑の比較・検討を行った。 (1)昨年度に作った「雲夢龍崗秦簡」の注釈について、日本の専門家(工藤元男・鶴間和幸氏等)や、中国の陳偉・胡平生氏等と、具体的検討を行った。また、韓国の金容民氏(現在発掘中の扶餘王宮里遺跡の責任者)や日本の山中章氏(久留陪遺跡の責任者)と意見交換を行った。 (2)秦朝の律である『睡虎地秦簡』、特にその中にある「秦律十八種」の「厩苑律」「工律」「工人程」「内史」などの禁律と「雲夢龍崗秦簡」とを比較して、相違点と共通点を明確にし、さらには禁苑律の特徴も明らかになった。例えば、両秦簡の比較によって、これまで不明であった簡文字の「其」字は「之」として使用できることが判明した。 (3)『張家山漢簡』の「算数書」と「雲夢龍崗秦簡」との比較ができたのは、今年度最大の成果であり、予想外の発見であった。これにより、「雲夢龍崗秦簡」に見られる「〓」という地帯の謎が明らかになった。 (4)日中両国にある禁苑遺跡の踏査を行った。今年度、該当秦簡の発見地への実地調査を2回(8・12月)行い、特に城内にある秦代の宮殿(離宮)遺跡と「〓」という地帯の位置を確認することができた。また、神武天皇の離宮と推定された久留陪遺跡、河南省にある則天武后の離宮である合璧宮と興泰宮等にも、それぞれ1回の実地調査を行った。 以上、今年度の比較研究から、秦朝の禁苑は、中国最古の算数書や日本の禁苑と接点があることが分かった。よって、今後「古代中国における禁苑・数字とそのアジアへの影響」のような新研究課題も提出できるだろう。
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