研究概要 |
論文「上海のユダヤ人難民音楽家」は上海のユダヤ人難民に多かった音楽家の活動を論じたものである。彼らは上海租界の外国人社会,特に当時東洋一と言われた上海工部局交響楽団で活躍しただけでなく,難民社会においても活発に演奏活動を行った。また国立音楽専科学校や大学において中国人学生を指導した。資金・楽譜・上演に適した場所の不足や人員の偏り(バイオリニストが多く、木管・金管楽器奏者が少なかった)など多くの困難と闘いながらの難民音楽家による公演はコミュニティを文化的共同体としてまとめる上で大きな貢献を果たした。各種名簿や資料を基に、従来知られていた数の1.5倍に上る音楽関係者のリストを作成した結果、アマチュア音楽家や俳優・女優も音楽活動に携わっていたことが明らかになった。 論文「上海のユダヤ人難民社会における女性の地位」はまずユダヤ人難民が発行していた新聞紙上で起こった「バーの女性」論争を取り上げた。収入を得られる機会が少ない上海では妻や娘がバーで働いて一家の生活を支えることが珍しくなかった。それを不道徳だと難じる意見と,難民が置かれている貧困状態の方こそモラル低下の危険をもたらすという意見があった。本論では上海のユダヤ人難民社会において創作・上演された戯曲『未知の大地』の紹介と解釈も交え、移住者の生きる意欲と家族やコミュニティ内の連帯感の形成に女性たちが果たした役割を考察した。 外交資料館において上海のユダヤ人難民関連資料の存在を確認し収集した。
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