本年度は昨年度にひきつづき、1870年代末より各国の在外公館に赴任した中国外交官が残した、執務日誌・日記体報告書である出使日記と総称する史料の調査に意を注いだ。現存する出使日記の、異本もふくめた網羅的な収集をめざし、同時に、在外使節と出使日記の対応関係のリストアップ、関連史料の調査収集、それぞれの分析をも並行して行った。 欧米の常駐公使の日記を調査・蒐集した昨年度の成果をふまえ、本年度はさらに範囲をひろげて、公使の日記のみならず、そのほかの文書・書簡、あるいは随行員などが残した日記・記録にも対象を拡大し、国内および中国での調査を経て、リストアップ作業をすすめた。さらに駐仏公使館通訳の馬建忠の文集や旅行記、駐独公使の李鳳苞の書簡集や朝鮮の弔問使節の記録など、いくつかのものについて具体的な校合・解析・入力の作業をすすめ、清末時期の出使日記にかかわる全体的な見通しを得ることができた。その成果の一端として、「『奉使朝鮮日記』の研究」と題して、国内外の複数の学会で報告を行い、また論文として発表した。 その一方で、研究代表者が従来からとりくんできた外交史プロパーの研究との接続をはかった。川島真と共同で組織する中国近代外交史研究会を開催して、本研究の活動を公開しつつ、ひろく明清史・近代史・外交史研究と関連づける活動を行った。またそうした研究活動の成果として、清仏戦争期の清朝・ヴェトナム関係を考察した「属国と保護のあいだ」と題する研究成果を東洋史研究会大会で報告し、また清末外交の立役者たる李鴻章の役割を再考した「「洋務」・外交・李鴻章」を中国現代史研究会ワークショップで報告した。
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