本年度は実施計画に基づき、6月に台湾の国立故宮博物院を訪問し、太平天国に関連する月摺档および軍機処档案を多く閲覧、複写した。また8月にはイギリスのNational Archivesを訪ね、太平天国関連の史料を収集した。そこでは太平天国の蜂起から1853年の南京占領時までの多くの新史料を得ることができた。ジャンルとしても私信や供述書など、従来の研究が踏み込めなかった内容に迫ることができた。 帰国後はこれらの史料の整理と分析を進め、その成果を史料集である『太平天国档案史料』第1〜3集および『清宮月摺档太平天国史料』第11〜15集、『英国公文書館所蔵太平天国史料』としてまとめた。これらの史料集は档案史料を中心に、様々なジャンルの史料を時系列に整理、配列したもので、公刊された史料集には含まれていない内容が大部分を占めた。また太平天国に呼応した辺境の諸反乱(捻軍、両広天地会、雲南および陜西のイスラム教徒反乱)についても多くの史料を掲載することができた。 本史料集を整理後、国内外の太平天国史研究者および関連機関に寄贈したが、とりわけ史料の閲覧に制約が多い中国大陸の研究者から高い評価と謝意を受けた。史料の共有は歴史家のなしうる国際的な学術交流の重要な部分であり、今後も未整理の部分について整理を進めることで研究の進展に寄与したいと考える。 また本年度は最終年度であったこともあり、新史料を活用した著書と論文の執筆に取り組んだ。うち『清代中国南部の社会変容と太平天国』は近年の研究成果をまとめたものであり、序章の一部および第三章は新たに書き下ろしたものであった。また論文としては「広西における上帝会の発展と金田団営」を年度内に発表することが出来た。さらに「英国National Archivesにおける太平天国史料」「金田団営後期の太平天国をめぐる諸問題」の2論文を脱稿したが、これらの論文は現在投稿中である。
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