2006年度は本研究の2年目にあたり、研究代表者江川ひかりが8月8日から11日にかけてブルガリアへ赴き、海外共同研究者であるブルガリア科学アカデミー研究員のステフカ・パルヴェヴァ氏とともに現地調査をおこなった。昨年度以来両者は、現ブルガリア共和国ローヴェチ県にあるビャーラ・チェルクヴァ町の住民であるマリア・ヴァンコヴァ氏所蔵の19世紀のオスマン土地文書を共同で解読している。これらの土地文書の大部分は土地証文であり、今日のトルコ共和国、パレスティナ等においては公開されていない、すなわち歴史文書であると同時に今日も「生きている」、場合によっては係争の証拠として提示され得る有効性をもつ文書である。ただし、ブルガリアにおいてはこのような制約はなく、しかも個人所蔵のため公開は問題ないものとされている。このような土地文書に関して内容を現地で確認するとともに、土地文書の公開に関して所蔵者のマリア・ヴァンコヴァ氏の許可を得るために、現地を訪問し、無事にマリア・ヴァンコヴァ氏の許可を得ることができた。同時に、ビャーラ・チェルクヴァ町の町長、テルズィエフ氏と、公民館館長のミルチョ氏にも会見ができ、同町の歴史民俗博物館も見学し、同町の歴史に関する諸資料・情報を収集することができた。さらに、同町がオスマン時代に帰属していたヴェリコ・タルノヴォ市を訪問し、ステフカ・パルヴェヴァ氏と問題点を整理した。 他方で、西北アナトリアのバルケスィル地方に関する史料分析を、マルマラ大学元教授ミュジュテバ・イルギュレル氏と漸次すすめている。8月にブルガリア訪問の際、イスタンブルにおいても関連文献・史料収集をおこなった。とりわけ、19世紀中葉バルケスィル市の新都市計画に関する文書を発掘したため、目下論文を執筆中である。以上のような作業の蓄積から、19世紀のブルガリアと西北アナトリアにおける地方社会の人びとが直面した社会変容を明らかにしていく。
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