本年度は本課題の最終段階の研究にあたって、中国内蒙古自治区・遼寧省などの地域に赴き契丹文字墓誌拓本の収集並びに遼代遺跡の調査をおこなった。(1)遼寧省北部各県において遼中京周辺地区から出土した契丹文字資料及び関連図書資料の収集ができた。これらの資料は、遼朝の外戚を研究するにあたって、最新かつ重要な第一次資料である。(2)内蒙古自治区赤峰において遼上京周辺地区から出土した契丹文字資料及び関連図書資料の収集ができた。これらの資料は、遼朝の皇族を研究するにあたって、最新かつ重要な第一次資料である。 本年度の研究成果は、今回の調査によって入手した契丹文字墓誌と関連漢文墓誌をもとになしたもので、『契丹文墓誌より見た遼史』にまとめられている。<第一部氏族と部落>において、対象とするのは遼の皇族耶律氏、遙輦氏、遼の后族諸姓氏及び契丹諸部落の内容、性質、相互関係などの問題である。契丹の社会組織を分析することでその通時的な推移及び共時的な構造上の特徴を観察し、遼の皇族の横帳、遼の后族の国舅帳の構成および時代によって段階的に異なる特徴を解明する。<第二部皇族と外戚>で考察したのは、契丹文墓誌に出現する遼の皇族、后族及び韓知古家族の重要人物の房族世系であり、これを基礎に『遼史』の皇族表と外戚表に増補訂正を行った。<第三部習俗と文化>で考察したのは、契丹文墓誌に反映された契丹人の命名習俗、契丹人の親族呼称及び女性に対する尊称、契丹人の婚姻習俗、契丹人の自称及び漢人に対する呼称、言語の角度より観察した契丹と近隣諸民族の間の文化的関係である。 以上の三方面の内容は均しく契丹人自身の記述を主要な根拠とし、契丹文と漢文双方の資料を対比することで詳細な究明を加え、帰納して成ったものである。本研究成果の最大の特色は契丹文字資料を広汎に利用して契丹の歴史を考証したことであり、これは先人が未だ曾て開墾したことのない領域であり、研究代表者が今後も努力を継続する方向でもある。本研究成果は遼代漢文史料が記述する史実の再認識、先人が漢文史料に捉われて提出した論点の再検討に対し、真偽を分別し、闕漏を補填する価値をもつものである。
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