本年度は、自由主義期ローマ市におけるカトリック団体による慈善事業の実態把握のための基礎作業、およびローマ市政の全体像の理解のための作業を進めた。前者に関しては、9月にローマ国立文書館において19日間にわたる史料調査を行った。当該時期の慈善事業に関する史料は膨大であり、特に県の管轄下に入ったものについてはイタリアの研究においてもほとんど未踏査で、文書館における分類も不十分であった。そのような状況のなかでの史料の選定は困難を極めたが、当該時期における活動の変遷を見通すことが可能な程度に史料が残存していた団体をひとつ選びその全文書を複写した。この調査で明らかになった史料状況はそれ自体、自由主義期のローマ市行政におけるカトリック団体の社会活動の重要性を示唆するものであった。その一方で、史料の内容は団体の活動の実態というよりも市・県と団体との関係性を明らかにする種類のものであることが判明した。したがって、史料の分析に入る前に未だ不明な点が多い自由主義期ローマの市政について研究文献を中心に理解を深める作業を行った。またこれに関連して、1908年にローマで開かれた「第1回全国女性大会」に関する研究を進めた。これはイタリアで女性運動の大同団結を目指して開かれた初めての大会だが、ローマ市の強いイニシアティヴのもとで行われた。そこには前年に市長となったE.ナタンとその一族、ローマの貴族たちと女性運動との強い結びつきが確認できた。これについては、2005年12月にイタリア近現代史研究会において研究報告を行った。
|