本年度は、昨年度に引き続き自由主義期ローマの行政に関する文献調査を進めるとともに、昨年度の現地調査によって得られた史料の解読を行った。文献調査においては、教会国家からイタリア王国への移行過程に関する新しい研究文献を購入し、とくに当該時期の文書・文化財の取り扱いというテーマに留意して研究を行った。また、昨年度収集したおもな史料としては、ローマの慈善団体S.S.アヌンツィアータに関する史料、およびローマ県アルバーノ・ラツィアーレ市の慈善委員会・慈善団体に関する史料があったが、今年度さらに、9月3日から18日にかけて現地調査を行い次のような成果を得た。ひとつは、教会-国家関係に関する史料調査で、ローマの国立文書館において教会財産の移譲に関する史料(会計院:旧慈善施設および宗務関係の通達)を選定して複写した。もうひとつは、この研究において副次的なテーマとしている女性運動に関する史料調査で、フィレンツェの国立図書館において全国的女性運動組織「イタリア女性国民会議」に関する会議録を複写した。 史料の解読については、当初予定していたローマ市慈善団体に関する史料ではなく、アルバーノ・ラツィアーレ市に関する県文書を優先的に取り上げた。それは、この史料が自由主義期ローマにおけるカトリック系慈善団体とイタリア王国の行政制度との関係を考察するためにより適切であったからである。この史料解読と分析を通じて次のことを明らかにすることができた。すなわち、イタリア王国の行政制度の浸透には住民行政の実質的な担い手であるカトリック系慈善団体の掌握が不可欠であったが、各市町村に設置された慈善委員会は監督官庁の県や内務省に対して自立的に振舞っており、王国側もその状況を事実上容認していたということである。
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