「科学研究費補助金交付申請書」の「研究実施計画」において「今年度の最終的な課題」と規定した単著のとりまとめは予想以上に迅速に進み、2006年12月に岩波書店より『プリムローズ・リーグの時代:世紀転換期イギリスの保守主義』として刊行された。本書は、「研究実施計画」に記された4つのテーマ、すなわち、(1)プリムローズ・リーグの成立と発展に関する事実経過、(2)プリムローズ・リーグの労働者メンバーたちの日常的な活動の在りよう、(3)プリムローズ・リーグの半数近くを占めた女性たちと保守主義のかかわり、(4)プリムローズ・リーグを中心として展開されたアイルランド自治反対プロパガンダの構造と受容、をすべて集約する内容のものである。また、4つのテーマのうちの(1)にかかわる研究の副産物として、「ランドルフ・チャーチルの死」を公刊した。原稿の執筆に重点を置く必要があったという経緯ゆえ、史料・文献調査のための旅費の支出は最小限に抑えられている。逆に、19-20世紀転換期に時期を限定せず、より長い時間的なパースペクティヴの中に民衆保守主義の現象を位置づけ、本研究をさらに発展させてゆく作業の第一歩として、第一次世界大戦期のイギリスおよびアイルランド政治に関する史料・文献の収集に力を注いだ。2007年4月には、第一次世界大戦を主題とする人文科学研究所の新たな共同研究プロジェクト「第一次世界大戦の総合的研究に向けて」が発足し、本研究に接続されている。本研究を足場として、現代世界の出発点となった第一次世界大戦の理解に至ることを現在構想している。
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