研究課題
基盤研究(C)
従来、本研究で取り上げているアンデスの先住民クロニスタ(記録文書作成者)フェリペ・グァマン・ポマ・デ・アヤラ(以下ポマと略記)はクラーカ(首長)の地位を棄てて「貧しい民」となって諸国をめぐり、過酷な植民支配の実態を具に見て回った後、先住民の自由と生命や伝統文化を守るため、独学で習得したスペイン語を駆使してクロニカ『新しい記録と良き統治』を著し、スペイン国王フェリペ三世に献呈した、いわば「解放の神学」の先駆者とみなされてきた。しかし、彼が1590年以来、植民地政府を相手取って、奪われた先祖代々の土地の返還を求める訴訟を起こしていたことが明らかとなり.伝統的なポマ像が疑問視されることになった。今回の研究では、ポマが土地をめぐる裁判に敗訴してから、先記のクロニカにかなりの修正・加筆を施した事実を検証するため、生地であるワマンガ市にある国立文化庁付属の地方古文書館で土地の返還をめぐる訴訟文書を調査した。また、ポマ自身が関わった土地訴訟文書は公刊されているが、校訂に杜撰さが散見されるため、ペルー・カトリック大学のリリアナ・レガラド教授らの協力を得て、デンマーク王立図書館がデジタル化した同文書の原本を解読した。その結果、非インカ系の民族集団の出身であるポマがインカ系貴族の出であることを名乗らざるを得なかった背景が明らかになったので、現在はその歴史的意味を植民地アンデスの先住民文化の脈絡に位置づけて分析し、キリスト教文化をたくみに取り込んで自己主張する新しい社会階層が出現していたことを解明する作業に従事している。研究成果は第52回国際アメリカニスト会議(本年7月セビーリャ大学で開催)で報告発表予定。また、昨年3月にポマの作品に関する新しい解釈を公にしたニューヨーク市立大ラケル・チャン・ロドリゲス教授らとポマの作品の編纂過程とその集団的性格(複数の協力者の存在)の歴史的意味について検討した。その成果は本年8月ボゴタで開催される「第6回ラテンアメリカ文化をめぐるアンデス会議」で発表予定。
すべて 2005
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国立民族学博物館調査報告「歴史の山脈-日本人によるアンデス研究の回顧と展望-」 55号
ページ: 65-90
Boletin de Arqueologia PUCP. No.8-2004
ページ: 31-41
Construyendo Historias, Aportes para la historia hispanoamericana a partir de las cronicas
ページ: 205-225