研究課題
20世紀末、イタリア人研究者ラウラ・ラウレンチク(ボローニャ大学・考古学)が従来の説を覆して、『新しい記録と良き統治』Nueva Cronica y Buen Gobiernoはアンデス先住民グァマン・ポマの名をかりて、混血のイエズス会士ブラス・バレラ(16世紀末にイエズス会から追放)が著したクロニカ(記録文書)であると主張し、その論拠に「ナポリ文書」もしくはミッチネリ文書と呼ばれる史料の存在を挙げた。その結果、世界各国のアンデス史研究者の間で大論争が繰り広げられてきた。本年度は、従来のクロニカ研究に欠けていた、著者(クロニスタ)の閲歴と文書執筆の動機解明に重点を置き、ラウラ説が信憑性に欠け、「ナポリ文書」が偽造文書に近いことを実証するため、クロニスタとしてより、ワヌコ地方を出身とするヤロ人の先住民共同体の首長としてのグァマン・ポマの行動を解明することを目的に研究を進めた。まず、今後のクロニカ研究にはクロニスタの閲歴を重視する必要があるという主張を訴えるため、その成果の一部を2007年4月末にサンチアゴ市(チリ共和国)で開催された第4回ペルー研究者国際会議(Internacional Congress of Peruanists in Foreign Countries)で発表した。その後、グァマン・ポマが作品を執筆するにいたった大きな契機と考えられる父祖伝来の土地をめぐる訴訟関係の史料(「プラド・テリョ文書」)と、作品執筆以前にスペイン人役人に通訳として仕えたときの土地売買(コンポシシオン)に関わる史料や昨年度および今年度に調査収集したワマンガ地方(アヤクチョ)における土地訴訟関係文書をペルー・カトリック大学のリリアナ・レガラド教授らの協力を得て解読し、その分析を行った。その成果は2008年度8月にリマで開催される第8回国際民族史会議VIII Congreso Internacional de Etnohistoriaにおいて報告予定である。なお、ライフワークにしている、グァマン・ポマに大きな影響を与えたスペイン人ドミニコ会士ラス・カサスに関して、ペルー国立図書館の要請を受けて、2007年11月に同国立図書館にて「ラス・カサスと黒い伝説」と題する講演を行い、グァマン・ポマとラス・カサスの思想的繋がりの歴史的意味を解明した。
すべて 2008 2007 その他
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
關雄二・染田秀藤共編 『他者の帝国』世界思想社
ページ: 61-89
大阪外国語大学グローバルダイアローグ研究会 松野明久編『トラウマ的記憶の社会史 -抑圧を生きた民衆の物語』明石書店
ページ: 19-37
BABEL GACETA(ペルー国立図書館発行) Ano1, No.5
ページ: 1-7
http://someda.jpn.org