研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、11-14世期に北西欧で最大規模の商業都市に成長した北フランスの自治都市、サン・トメールSaint-Omer市を対象として、同市における市場構造及び諸制度の変容について、これを編年的・生成的に集積された諸ルールの「制度化」(公認)と「脱制度化」(逸脱)の相互進化として捉え、市場システムの自生的生成の側面と権力介在的な側面を双方向的に、あるいは総合的に照射することにある。平成17年度においては、夏季休暇を利用して、サン・トメール市文書館に10日間滞在して、13世紀後半に作成されたRegistre aux bansを直接参照し、すべての葉をデジタルデータ化した。それをもとに従来のジリー校訂本では得られなかった貴重な情報なども得ることができた(特に都市の文書管理の面で)。こうした基礎資料をもとに、本年度はまず、海産魚を中心とする水産物市場のあり方に焦点を絞り、(1)市場をとりまく生産・流通・消費のメカニズムの基本的流れ、ならびに(2)都市当局の市場統制・対応の基本と変化を主題として本研究全体を最小に展望するような小論をまとめた。これは最終的な調整中で次年度初めに『市場史研究』26号に投稿を予定している(平成18年度のうちに刊行予定)。また、サン・トメール滞在中には、13世紀末から14世紀中期にかけて同市で編纂された先述のRegistreの後継記録、Renouvellement de la loiの参照と撮影も一部行ってきた。これらを継続して読み込む作業とそれらの全体的分析は、次年度以降の継続課題であるが、初年度はそのための準備作業を行ったといえる。なお、本研究に並行して、この間に西欧中世社会経済史の基本の1つである「度量衡学」に関して研究動向をまとめる論説を公刊した(『西洋中世学入門』に所収)。さらに、サン・トメール市を事例とはしなかったが、同じく北フランスの有力な商業都市であったドゥエを事例として、13世紀から14世紀の自治都市の政庁による文書行政の特質に関しても、その全体的傾向を述べる論稿を発表した。これもまた、本研究の基礎的な作業をなすものである。また、昨年度末に終了した別の科学研究費による研究の継続的成果として、本年度になってから英語論文として公になった。これもドゥエ市を扱った論文と同じく、中世都市の文書行政に関する事例研究である。こちらはサン・トメール市を事例とする成果である。
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平成15〜17年度科学研究費補助金基盤研究(B)2研究成果報告書「ヨーロッパ中・近世における国家の統治構造と機能」 1巻
ページ: 44-53
The Haskins Society Journal, Japan. Studies in Medieval History Vol.1
ページ: 39-48
西洋史学論集 43号
ページ: 93-95