平成18年度は、前年度に行った水産物流通・市場関連の都市条例の分析とそれに関する研究会報告(市場史研究会)をもとに、それをより精緻に整理・分析し、学術論文にまとめて『市場史研究』第26号に投稿し、成果の一端を年度中に公にすることができた。そこでは、本研究のテーマである「制度化と脱制度化の相関」に照らして、都市管理者の市場活動への耐えざる関与とそこから抜け出そうとする市場利用者の行動とを、総合的・立体的に把握する視点を論文の最後で提示することができた。 以上の水産物市場とそれをめぐる管理の問題と並行して、13世紀サン・トメール市の都市条令登記帳(registre aux bans)の全条文のデータベース化の作業も進めていたが、これは字句の訂正・確認作業を残してほぼ終了した。また、13世紀末から14世紀中期にかけての都市条例に関する同様の作業については、14世紀初期の都市条例や都市法記録集である<Renouvellement de la loi>(サン・トメール市文書館に7〜8分冊のコーデックス形態で保存)の撮影など、データ収集作業自体は、8月にフランス渡航を行ってこれもほぼその作業を終わることが出来た。ただし、文書読解作業にはかなりの時間を要しており、入力の段階になお至っていない。この作業は次年度にかけての継続作業と考えている。さらに、平成18年度は、家畜・食肉市場と穀物・パン市場の部門に関する条例の整理と分析にも取り組み始めた。現在もこの作業は継続中で、本格的な成果発表は、次年度において行う予定でいる。 関連業績としては、大学の西洋史概論向け新たにに編集された新しい中世史の概説書で、この間の研究成果を踏まえて、「都市・商人・市」の一節を担当した。また、史料論に関する学会コメント報告として、西欧中世社会経済史の分野での最近の史料分析の特徴に関して一文をまとめた。
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